アスパイアリング峰(3033m)登頂
年月日 2009年12月27〜28日
天気 27 晴れ、午後時々曇りか霧,28 晴れ
タイム Wanaka BASE(7:50)…Aspiring Guides(8:00/10:10)=Aspiring Helicopters(10:45/11:00)
→Heli Charter→Bevan Col(1851m)(11:20/11:40)…Colin Todd Hut(1800m)(12:50//2:54)
…North West Ridgeに出る(2400m)(7:00/7:20)…Aspiring山頂(9:18/9:40)…The Ramp分岐
(10:50/11:30)…Colin Todd Hut(15:10)

ヘリで一気にBevan Col(ビーバン・コル)へ飛ぶ
 朝8時に湖側の通りに面した登山用具店の2階にある、Aspiring Guides社のOfficeへ行き、何回もメールでやり取りしたので私を直ぐわかった元気良い事務の中年女性に迎えられる。私のガイドAritzaとDirecterのAndyと顔合わせをする。Aritza(アリッツァ)はスペイン出身で今はペルーのワラスで登山ガイドをしており、11月から初めてNZに来て5ヶ月程も滞在し、ガイド業+オフには個人的に登山も楽しんでいるそうだ。私が提出した山行歴にワスカランの事を書いたこと、また両者英語はNativeでないから話が通じやすいのでは、という配慮もあって彼が選ばれたみたい、ペルーのガイドとは全く予想外だ。Kiwiの登山ガイド数は少なく、彼らは話が通じやすい自国かNativeの客を好む傾向はありそうだ。ペルーというと悪い想い出があるのと、本来現地に通じたガイドのほうが良さそうに思われるので、ちょっと心外だったが、同行するにつれ、彼はとても熱心なガイドであったので不安は概ね消し去ることができた。Kiwiの人は大柄で、居合わせた他のガイドやお客の山男達もたくましい大男、その中でAritzaはかなり小柄に見えるが、自国での登山経験は十分でワスカランは20回以上、その他ペルーアンデスの目ぼしい山はほとんど登ったと言う。装備の点検とレンタルする登攀具を選び、デポする荷物を整理。ここで山の上の服装に着替えてしまう。出発時間は状況次第ということであとはOfficeに飾ってある写真やポスターなど眺めて待つ。
Bonar Glacier(ボナー氷河)から見上げるAspiring(アスパイアリング)峰
 朝は雲がかかっていたのが晴れてフライトOKとなり別の女性が運転する車でAritzaと出発。彼女はUSA出身でこちらで仕事を持っていて運転手はバイトだと言う。大声で良く喋るのでその応対に気をとられ景色をゆっくり眺めてられなかった。車で入れる終点がRasberry Flat(ラズベリーフラット)で、だいぶ手前にAspiring Helicoptersの発着所がある。他の2組計6名とパイロットが同乗して、一気にBevan Col(ビーバン・コル)(1851m)へ飛ぶ。高度を上げて正面の稜線を超えると、真下にクレバスだらけの氷河が見え、こんなところはとても歩けないなと思う。稜線の右手を眼前に山肌を見て飛び、左に移って高度を徐々に下げると平坦な雪の上に着陸。事前に教えられたようにヘリが飛び去るまでは低くかがんだ安定姿勢で待つ。同乗者はスイスから来た男性2人組、及びKiwiの父と娘のパーティだった。スイス人は「遂に来た!」という感じで大はしゃぎしている。
 ハーネスとロープを準備し、Aritzaにロープ残りを体にきちんと巻きつける方法をご教授いただく。平坦なBonar Glacier(ボナー氷河)を横切り、反対側の雪の斜面を少し登った所に建つColin Todd Hut(コリン・トッド・ハット)(1800m)まで行く。クレバスはほとんど無くとても歩きやすかった。Aspiringは正にマッターホルンという姿で氷河の上に全貌を見せてくれ、快晴無風という昨日の荒天が嘘のような絶好の天気。岩場の上に建つこじんまりした小屋に着くとオーストラリアから来た若い男性2人が出発しようとしている。聞くとクリスマスの前から歩いてここへ入山し、今日まで天候待ちしていたが時間切れでこれから歩いて下山とのこと。今朝もガスでアタックできなかったらしい、こんなに天気良いのに何とも気の毒なことだが、同時に好天のチャンスは極めて少ないことが判る。
ロープ確保して雪壁をダブルアックスで登る
小屋には我々2人だけとなり、小屋は満員でテント泊になるかもと聞いていたのは嬉しい誤報となった。 ベンチのあるテラスからAspiringをはじめ氷河周辺の山々の展望が良い。しばらくして父娘組が到着、スイス組は氷河のどこかにテントで泊まるらしく小屋に来ないようだ。父はRichard、娘さんはEsme(イースマイ)という名前で、南島のDunedin(ダニーデン)という町にお住まい、Richardは2mは裕に越えるかという長身で、小屋の棚に良く頭をぶつけていた。Esmeは美人であるがやはり体格はとても大きい。 内部には小屋の歴史の解説があり、当初氷河よりに初代の小屋を建造した登山家の名前がつけられた。今は国立公園管理局(DOC)の管理になっている。キッチンには食器類が多数でガスも使え、すいていれば快適な所だ。
 15時頃からAritzaとRichardは明日のルート偵察に出かけたが、私は体力温存のために休んでいることにした。その後は夕食の準備、テントも破ると言う悪名高きいたずら鳥のKEA(ケア)がやってきたので、あわててテラスに干してあった道具を片付ける。メニューはソーセージを焼いたものにポテトフレーク(マッシュポテトのようなもの)に日本人の私に気を使ってみそスープ、わさびペーストも買ってくれたのは良かったが、彼はハーブティーや香草のペーストなど匂いの強いものを好み、食べ物の趣向はあわない。Guide会社のアンケートで食事について全く偏食は無いと書いてしまったが、「日本食しか食べれない」とでも書いた方が良かったかも。Richardたちのメニューは牛肉と野菜をふんだんに使ったシチューとα米で目移りしてしまう。17時半頃、下のAspiring Hutから11時間かけて登ってきたKiwiの若い男女2名が到着。19時過ぎに小屋に設置された無線に定時連絡が入り、天気予報を伝えてくれる。明日は好天が期待できそうだが、その後は寒気が入って下り坂かもしれない...ということ。また無線で各小屋に居るパーティー・人員を報告することになっていてAritzaが対応。
夜明けに染まるMt.Edward(2620m)とFiordland方面の山々
 翌日未明に完全装備で出発。ルートはAspiringの最も一般的なNorth West Ridge(北西稜)で、途中まではThe Ramp Routeという雪壁を登って稜線に出る。雪の状態次第では危険だと小屋に注意書きがあったが、下から北西稜通しに登るより早く今は雪の状態も良いという判断だろう。雪の斜面をトラバースして1時間強で急になり、ここからダブルアックスの雪壁登攀となる。TopのAritzaがピッケルとアイスバーで支点を作り、それを利用して私がビレーしスタッカットで登っていく。雪が適度に締まってガチガチでもなく、アイゼンも良く効いて良いコンディション。傾斜45〜55度ぐらいだろうか、さほど厳しい感じはない。夜明けとなり周辺の山が赤く染まって素晴らしいひと時を迎える。明るくなってくると、右側がクレバス帯へ向けて急峻に切れ落ちているのが見えてきて、落ちた場合はSecondもそっちに流されるという恐怖感がある。RechardとEsmeパーティーも意識してか我々の近くを登って時々声を掛け合った。ちょっとロープが交差して邪魔な時もあったが。。。若いKiwi男女は後からロープ無しで我々を軽く抜いて登っていった。
山頂展望、Mt.Cook(マウントクック)の遠望
 同じ事を7ピッチ繰り返して稜線上に出た。広いコル状の平坦な場所で、緊張から少し解き放たれ周りの山を眺めて一息つける場所。昨日作った行動食のサンドイッチを頂くが、サラミとチーズにあの強烈なペーストで全く口に合わない。他にチョコヌガーとアミノバイタルもあるのでそれで何とかエネルギーを補うことにする。先の稜線はこれまでほど急な所は無くコンティニュアスで進む。岩が露出しているところは30分ぐらいアイゼンをはずして歩く。 上部は痩せてクラストいるので念のためスタッカットで行くという。3ピッチ進むと突然前方が急峻な壁となって切れ落ち待望の山頂、Aritzaと固い握手。彼も登頂したのは初めてなので感激の様子。南側にはAspiring National ParkからFiordland(フィヨルドランド)へ続く氷河の峰が続き、北側にははるかにMt.Cook、眼下にはTherma Glacier(サーマ氷河)の切り立った谷底に広く水を湛える氷河湖、ぎざぎざのバリエーションルートであるCoxcomb Ridge、Aritzaとカメラを交換してこれらの被写体をバックにお互いの姿を何枚も写した。Rechard親娘も少し遅れて到着しお互いの登頂を祝福。  下山は、頂上直下も含め雪壁の下降口までコンティニュアスで行く。私がTopとなるので岩場では時々ルートがわかりにくい。午後に雪の状態が悪くなったときは、山渓のハイキング案内に載っている反対のTherma Glacier側へ下るのだろうが、今日は同じThe Ramp Routeを下れるようだ。登りと同じ回数のピッチを切ってスタッカットで下降。下りは私が最初になるのでピッケルとスノーバーで2箇所の接点を作ってセルフビレーとカラビナのビレーを行うよう教えてもらう。上からロープを張ってもらって下向きに下るので雪が緩んで滑らないか心配。上ではAritzaがGo!Go!Go!と叫んでいるが、ここは慎重になってしまい、南東稜を登ったらしい別パーティも加わってパーティ三つどもえ状態なのでよけい進みが遅い。
山頂展望、Therma GlacierのU字谷底、氷河湖を見下ろす
 気温が上がって暑さに疲れも増して支点のセットに時間がかかる。Aritzaをビレーして合流すると、2箇所の支点は力が均等配分でないので、このセット状態ではダメと言われる。そう言われても疲れで力も入らず雪も緩んでなかなかガッチッとは決まらないし、Ramp Routeは時間が勝負ということで、途中からはスノーバーは使わずピッケル1本だけにして時間を節約する。
 午後に入ると雲が上がってきて時折ガスがかかる。危険地帯を過ぎて一服、そろそろ体力の限界が来てアミノバイタルのエネルギー即効効果も期待はずれ。いつものシャリバテ状態になり、真下に見える小屋も遠く感じる。Aritzaに引っ張られて行動12時間強で小屋へ帰還、情けないが疲労激しく夕方まで横になって休んでいた。少々遅れてRechardたちも帰還、今日も我々と同宿。NZ人夫妻とAlpine Guides社ガイドのパーティがヘリで入山してきた。南東稜から登頂した別のパーティは、17時頃French Ridge Hut(フレンチリッジ・ハット)へ向け出発していき、その体力には敬服。小屋には3パーティ7名となり今日もゆったり。ペルーでは、とうもろこしの粉をこねてダンゴ状にしたものを主食としていたが、同じ趣向なのか名前は忘れたが穀物をフレーク状にしたようなメニューで、粉っぽくてなかなか喉をとおらなかった。久々に食事に難儀する山行になり、以前海外同行した誰かの苦労を共感。定時行進にて明日以降は今日のような好天は望めそうも無く、状況によってはFrench Ridge Hut経由ではなくコルから谷を直接下るルートに変更の可能性もあると言う。
山頂展望、Bonar Glacierとその周辺の山 Mt.Avalanche(2606m), Rob Roy Peak(2644m),
French Peak(2356m)など、右奥にはMt.tyndall(2496m), Mt.Earnslaw(2830m)方面

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