ドロミテの代表的景観 トレチーメ(3001m)山麓一周ハイキング+トブリンの塔ヴイアフェラータ(中級)
年月日 2013年7月13日
天気 晴れ時々曇り、午後にわか雨
タイム Hotel Villa Gaia(8:20)=ミズリーナ湖(8:47/8:53)=オーロンツォ小屋(9:15/9:40)…教会の建物(10:00) …ラヴァレード小屋(10:18)…ロカテッリ小屋(11:10/11:28)…トブリンの塔頂上(12:22/12:40)…ロカッテリ小屋(13:08/13:35)…Rif Langlm(14:35/14:40)…オーロンツォ小屋(15:20/15:40)=ミズリーナ湖(16:03/16:15)=コルティナダンペツォ(16:35)

コルティナ・ダンペツォの街からはトファーナ、ポマガニヨンなど岩山が望める
トレチーメ・ラヴァレードの3つの尖峰を終始眺めながら一周する人気のハイキング

ロカッテリ小屋の左奥がヴィアフェラータで登頂したトブリンの塔
 朝、夜の喧騒とは異なる静かな街の中を散歩して見る。帰りは古風な旧鉄道橋の石橋を渡る遊歩道兼自転車道をホテルのあるGuide Alpine通りの少し先まで歩くと、霧の中に浮かび上がる岩山を眺めながらの心地よい道だ。朝食が7:45開始と言われたが、天気が良いことも有り宿泊者は早めに集まってきている。同宿者が顔を合わせるとGuten Morgenとドイツ語で挨拶し家族的な宿、食堂の窓からは駐車場を隔てて緑のじゅうたんの奥にトファーナ(3243m)の岩峰が素晴らしい眺め。朝食も例によってより取り見取りで腹いっぱいだ。今日はドロミテに来たらはずせない、トレチーメ・ディラヴァレード(ドライチンネという呼称でも有名)へ向かう。途中のミズリーナ湖(1745m)は、湖畔に古風で重厚なホテルの建つリゾート、ここからトレチーメが顕著な双耳峰に見えひときわ目を引く。少し先でバスを待つ人を大勢見る。オーロンツォ小屋への道路はゲートがあって、ここで車1台あたり21Euroもの料金を徴収された。駐車料金込みとは言え異様な高額であり、これを嫌ってバスに乗り換える人が多かったのだ。
 オーロンツォ小屋(2333m)付近は整理員が出ていたが駐車スペースは十分にあった。小屋の前はハイキングに出かける多くの人で観光地の賑わいとなっていた。観光バスで来たり小屋に泊まっていた各国の家族連れ、グループ、日本人のツアー客などで、これまでの入山口とは雰囲気が全然違っていた。トレチーメ・ディラヴァレードは3つの岩峰オヴェスト(2973m), グランデ(3001m), ピッコラ(2857m)から成り、それを反時計回りに一周するのが人気のハイキングコースだ。左に岩場を見上げ、右はCima Cadin di San Lucano(2839m)を筆頭とするカディーニ山群を眺めながら、観光客に混じってぞろぞろと絶壁の麓の広い道を歩いていく。カディーニ山群方面の道もヴィアフェラータがあるようだがメインコースは簡単で拍子抜けしたという報告もある。今日は一周ハイキングのついでにスリルが味わえるトブリンの塔ビアフェラータにも挑戦しようと考えていて、中級でなかなか大変という報告もあるので私は観光気分ではない。
ロカッテリ小屋付近からクリスタッロ山を望む、明日にはぜひ訪れたい
ちょっと雲が多めで岩峰の頂上部が雲の中に隠れてしまったので、天候は悪化なのかと心配するが、次第に雲は切れてすっきりした青空が広がってきた。トレチーメの周りは雪渓が残る高山性のお花畑になっていて、さらに別の岩峰・岩塔が周囲を取り巻くように妙義山か桂林かという様相でそこかしこに点在してなるほどドロミテを象徴する光景である。皆トレチーメの岩壁を揃って見つめているので何かと目を凝らすと、岩壁に取り付いているクライマーの姿があった。ヴィアフェラータという生やさしい世界ではなく本格的ロッククライミングだ。
 教会の建物からラヴァレード小屋(2390m)まで歩くと団体の観光客が多いのはこの辺までで、道幅も周りの人もハイキングらしくなってきた。付近に立っている案内板には、一周する以外にいくつかのトレールが示されているが、岩塔のピ−クは絵が書いてあるだけでピーク名は一部しか書かれておらず、トブリンの塔の記載も無い。無料でもらった案内図もしかり、割と適当に書いてあるので周辺に林立するピークの全貌は良くわからない。しばし登り坂となりトレチーメからパテルノ(2746m)方面へ伸びる尾根を乗り越す峠まで上がって来た。これまでと反対側から見るトレチーメの北壁が凄い。正にその名の通り3つの岩峰が仲良く並んだ姿が現われ、空もすっきり晴れ渡り絶景である。前方の遠くの台地上にロカテッリ小屋が立っており、その背後にそびえるのがこれから挑戦しようとしているトブリンの岩塔だ。見た目はなかなか険しそうである。日本の女性2人組に話しかけられるが、彼女たちは地図に載っていない枝道がたくさんあるのでやや戸惑っているようだ。みんな思い思いに好きなルートを歩いている様子でこれもお国柄か。同じく反時計回りに一周ハイキングということで進むべきルートを教えてあげ、ついでにシャッターを頼む。これだけ視界も良いので、目的のルートさえはっきりしておけば道に迷うことはありえないだろう。
垂直の岩壁に人口の支点や梯子が連続
 ちなみにかつてはこの峠がイタリアとオーストリアの国境だったそうだ。現在ヴィアフェラータを楽しめるのは、両国の山岳部隊が岩壁にルート工作して駆け巡ったことが大きく影響している。ロカテッリ小屋(2438m)へはモンテ・パテルノ(2746m)の裾をトラバースするハイキングコースを通って行くが、かの近藤謙司さんのガイドツアーレポによるとパテルノの山頂をへてヴィアフェラータのコースもあり、戦時中の塹壕跡やトンネルがここでも見られるそうだ。ロカテッリ小屋の周辺はランチタイムを楽しむハイカーが大勢休んでいる。上方に建つ教会の隣に、Via Ferrata Torre di Toblin と書かれた道標を確認、腹ごしらえをしてから岩塔へ向かう道を登って本日のヴィアフェラータに挑むことに。岩塔の下までは道がついていて周辺を散策するハイカーが歩いているが、次第に不安定となり岩壁のバンドをトラバースして、ロカテッリ小屋からみると裏側にあたる岩壁に固定ワイヤーが設けられていた。ここまで来ると人の気配は無く、もう少し人が登っていると思っていたのが誰も居ないのに不安が募るが、意を決して登り始める。岩場の岩溝付近を右に左に、時にチムニーの内部に入り込むように垂直のルートが続く。梯子や鉄杭の足場が設けてあるが結構不安定なバランスを強いられる個所もある。はるか下まで垂直の絶壁で高度感はたっぷり、緊張の連続だ。ワイヤーで確保されているというのが唯一の安心材料だ。40分ぐらい岩と格闘して十字架が立つ頂上へ。岩場の部分は高度差はせいぜい100m強という所だが結構長く感じた。誰もいない山頂を独占、周囲を取り囲むようなセックステナードロミテの岩峰群にしばし目を奪われる。眼前にPta Tre Scarperi(3151m)付近の山塊がそびえ、直下の池の点在する眼下のお花畑の草原の向こうにパテルノやCima Do dici 別名 Zwolferkofel(3094m), Cima Undici 別名 Elferkofel(3092m)を筆頭とする針峰がこれでもかと続く。トレチーメの右にはソラピス(3205m)、クリスタッロ(3221m)、正に見渡す限り周囲をぐるり一周ドロミテの岩岩岩だ。
 下山ルートはトレチーメに向かって左手のリッジにヴィアフェラータが続いていた。こちら側は広い岩場をジグザグにルートがつけられ、下るのにさほど困難な個所も無い。反対側から2パーティーがヴィアフェラータ装備で登ってきた。下に人がいる間は特に落石に注意、またすれ違いの際はカラビナをワイヤーから外すので慎重に行動する。こちらからの往復であればもっと容易に頂上に立てるわけだが、難しいルートから征服できたのは満足であった。急な岩場を下り切ると危険地帯は終了し、普通の道をロカテッリ小屋まで下って本日のヴィアフェラータは終了、2時間近くを費やしハイキングのついでと言うには長かった。あとはお花畑の中のゆるやかなハイキングコースで反時計周りの続きを歩くだけだ。
 難所を終えすっかり安心した気分になったのが災いして、ここで思わぬ失態を演じてしまう。早く帰ってワインが飲みたいなどついよそ事を考えてしまい注意力散漫だったのだろう。幅広の下り道はつい早足になってしまい、ちょっとした石が道に出ていたのにつまづいて、思いっきり前方に転倒してしまった。しばし手足の激痛に耐える。骨に異常があったら一大事。両手の肘に皮がむけるほど深いすり傷を負ってしまい、手足の関節あたりが痛いけれど、幸い歩くには支障なかった。このあとは歩くペースは遅くなったし、傷も結構出血がひどくて実際帰国後もなかなか治らない事態となった。難所を終えついうかれた気分になったのがいけなかった、反省しきり。
ヴィアフェラータでトブリンの塔を征服、頂上からの大パノラマ

 気を取り直して残りのハイキングを継続、トレチーメの3つの岩塔が進むにつれて少しずつ違った山容を見せてくれる。リン平原のお花畑の中を、雪渓から流れる何本かの沢を横切って進むと道が登りに転じる。途中Rif Langlmの小屋があり、Pta dei Scarpei(2685m),Cima Bulla(2800m),Rautkofel(2605m) などの岩塔群を背景にお花畑に囲まれた素敵な場所だ。Col di Mezzo(2245m)の峠まで登るとクリスタッロの雄姿が再び望める。最後は山腹を平坦にトラバースしてロカッテリ小屋へ戻る。針の山のようなカディーニ山群とその右にぺルモ(3168m)の奇峰の姿、緑の中のミズリーナ湖とその奥にソラピス、そしてクリスタッロを望みながらの道、今日も終始まことに展望に恵まれたコースであった。ドロミテで最も人気のあるハイキングコースというのもうなづける。帰路もミズリーナ湖に立ち寄り、のんびりとソラピスなど美しい岩山が湖面に映るリゾート気分を満喫した。コルティナへ戻ってからトファーナのロープウェイ乗り場を見に行く。ほぼ最終便の時間なので閑散としていた。明日クリスタッロのヴィアフェラータから早く戻ってきたら、ロープウェイでトファーナ(3243m)の山頂まで行けるかも知れない。夕方観光客の雑踏があふれる街の中心へ再び繰り出す。中心にある大きなスーパーはお土産や本・地図など豊富な品ぞろえで便利。近代的で便利な半面、南チロル・ドロミテ地方の素朴な山岳リゾートという雰囲気は失われてしまっていると思う。
下山ルート方面からトブリンの塔を振り返る
途中の景勝地ミズリーナ湖からトレチーメを望む

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