4 スロヴァキア最高峰ゲルラホスキー(2655m)登頂とタトリ山地ハイキング
年月日 2018年7月23~25日
天気 晴れ時々曇り、にわか雨
タイム ペンション[Penzion Partizan](17:10)…スタリー・スモコヴェツ登山ガイド事務所、他…ペンション(19:25//7:55) …=(鉄道)=タトランスカー・ロムニツァ[Tatranska Lomnica](8:20)…ゴンドラ乗場…タトランスカー・ロムニツァ(9:50/10:02) =シュトゥルブスケー・プレソ駅[Strbske Pleso](10:45)…湖畔…リフト乗場(11:25/11:40)~山頂駅(11:50) …プレッドネー・ソリスコ[Predne Solisko]山頂(12:40/13:05) …山頂駅(13:30/13:35)~リフト乗場(13:50)…ハイキングコース入口(14;20)…ポプラドスケー湖[Popradske Pleso](15:55/16:05) …ポプラドスケー・プレソ駅[Popradske Pleso](16:53)=スタリー・スモコヴェツ(17:25)…ペンション(19:00//5:00) …=タトランスカ・ポリアンカ[Tatranska Polianka](5:42/6:00)=(送迎車)=スリーツスキー・ドム[Sliezsky Dom](6:15/6:25) …岩場登攀開始(7:05/7:20)…稜線(8:38)…ゲルラッハ窓(9:30) …ゲルラホスキー山頂[Gerlachovsky Stit](10:03/10:26)…バチツオフスケ谷[Batizovska Dolina](12:22/12:40) …バチツオフスケ湖[Batizovske Pleso]…スリーツスキー・ドム(14:10/14:40) =タトランスカ・ポリアンカ(14:55/15:10)=スタリー・スモコヴェツ(15:25)…ペンション

スタリー・スモコヴェツ駅近くの登山ガイド事務所
 ネット予約したペンションは少し離れていてスタリー・スモコヴェツ駅から歩いて20分程。1時間おきに出る電車で2つ先の駅まで行くと近い。狭くて簡素な部屋だが、個室で朝食付き1泊20Euroという安さなので十分許せる。最高峰ゲルラホスキーの登頂は、この国の山岳会所属でもない限りガイド必須ということだったので、メールでオーナー知り合いの登山ガイドを頼んだつもりだったが、すっかり忘れられていたようだ。でもガイド組合に行けば多数のガイドが登録されていて手配できるというので、再びスタリー・スモコヴェツへ歩く。さきほど訪ねた観光案内所の目の前がガイド組合の事務所だった。親切なお姉さんが、「明日でも登れるわよ!」と応対してくれ、いきなり明日は急すぎるので明日は足慣らしとして明後日に予約をした。登山ガイドプランとしては合計20種類位リストに載っていて、登る山には事欠かないようだ。夕食処はペンション付近に無いので、スタリー・スモコヴェツの町中で食べる必要があるが、カフェティリア方式で好きな料理を指差して選べるレストランや屋台風の店など、庶民的な食事処が有ってそんなに混んでも無いので便利。スープ、肉料理、サラダに生ビールかワインで10Euro程度だ。物価はヨーロッパの観光地と思えない安さで暮らし易い所だ。
 ペンションの朝食は7時からでオーソドックスなもの、値段から多くは期待できないが、コーヒーがインスタントだったのが難点。急いで最寄のホーニー・スモコヴェツ駅から電車でタトランスカー・ロムニツァへ。混雑は覚悟の上、標高2634mのロムニツキー・シュティート山頂まで登れるという名物のロープウェイを目指す。駅からの案内があまり無くて少し迷いながらチケット売り場を見つけ列に並ぶ。ところが結構青空も広がっているのに、強風の為ロープウェイは全面運休だと言われがっかり!ここまで来ないとわからないのは不便だ。どうしたものかと地図を見て考え、タトリ電気鉄道の反対側の終点シュトゥルブスケー・プレソまで行ってみることに。皆考えることは同じなのか、電車は大混雑だった。シュトゥルブスケー・プレソ駅までやって来ると、ポーランド側からの風下側に来たためか、山々の眺めが良くなった。
プレッドネー・ソリスコ山頂からVel'ke Solisko山とMlynicka谷を隔てたSatanを望む
 ホテルの間の坂を登っていき駅の名前になっているシュトゥルブスケー湖の湖畔を少し散策。家族連れや子供たちで大賑わいだった。スキーリゾートでもあり大きなジャンプ台が見える。付近にプレッドネー・ソリスコへのリフトがあるので、地図を見ながらスキーのクロカンコースでもある小さな丘を越えて様子を見に行くと、ここのリフトは動いていた。往復15Euroのチケットを買ってリフトに10分程揺られ標高1830mの中腹へ。Chata Pod Soliskomのレストハウスがあり、ここまで上がってくるとかなり風当たりが強く寒い。標高2117mの山頂まで約1時間の登り、見上げると沢山の人が登っていて観光気分の山のようでもあるが、急斜面でそこそこ本格的な山道。風は部分的に強く吹く程度で問題ない。十字架が立つ山頂は狭い岩壁のふちにあり眼前にVel'ke Solisko(2413m)への稜線、その右手にMlynicka谷を隔ててSatan(2422m)からHruby Vrch(2428m)に続くギザギザした稜線の展望が得られる。反対のFurkotska谷を囲む山の奥に、すっと高く目立っているのがKrivan(2495m)だろう。リフト駅付近の賑わいに比べるとここまで登ってくる人は少く、一段下がったゆるい斜面は風を避けられるので岩の上に座って休む。タトリ山地で最初に登ったピークに立った印象としては、全体的にごつごつ・ごろごろした岩山が並んでいる感じですっきりした1枚岩のような山容は見られない。氷河によるカール地形が多く見られ、その後の風化により形作られた山脈は北アルプスの岩山も連想させる。だが険しさはこちらが上だ。山頂の先Vel'ke Soliskoへ続いている稜線には登山道が無く、地図によると左側の谷につけられた道があってこの先のコルを超えるルートになっているようだ。
ポプラドスケー湖畔の立派なヒュッテ
 リフトの山麓駅へ下山するともう午後2時になってしまった。駅方面へ向かう途中、登山案内板があったので地図を見ながらどの山かチェック。Rysy山(2499m)、Krivan山(2494m)、Bystre Seldoのコル(2314m)の3つが紹介されている。強行軍になるがクライミングの装備無しで日帰りで登れるようだ。この先左へ折りかえすように道が分かれ、Love Lakeというロマンチックな案内板がある、Mengusovska谷方面の別のハイキングコースへと続いている。ポプラドスケー湖まで1時間ちょっとの道のり、今からでも十分歩けるので行ってみる。左手に先ほど登ったソリスコ方面を見て山腹を巻いて進むと、右手にMengusovska谷を隔ててOstrva(1978m)の岩壁が聳えている。コースには自然探勝のための解説板が設置されている。でも明日は登頂日で早朝出発だし夕方は雷雨の心配もあり、ゆっくり読んでいるわけにもいかない。緩い登り基調で概ねなだらかなこのコースは人気があるようで、特に逆コースで下ってくるハイカーが多くて、みんな礼儀正しく挨拶してくる。花も楽しめて道脇のヤナギランのピンク色が鮮やか。
ゲルラホスキーへの岩場の登り
ポーランド側からの強風が止まない為か、さらに谷奥の山々には雲が湧いている。谷奥にはカール地形の奥にVysoka(2547m)やRysy(2499m)をはじめとする無数のピークが有り、その一部は雲の間からギザギザの山容を覗かせている。複雑な地形とピークの多さがここタトリの特徴だと思う。湖畔に2軒のヒュッテが立つポプラドスケー湖がコースの終点。一般者は入れない車道が通じているので、立派な施設になっている様だ。思ったよりも多くの人で賑わっていて、湖を訪れるハイキングとしてはちょっと興ざめだった。ハイカー以外にも、町から離れて自然の中で滞在したいという人も多いのだろう。ここからは多くの人が歩いていて時々許可車が通る車道を急ぎ足で下る。駐車された沢山の車の脇を抜けてポプラドスケー・プレソ駅に到着、ちょうど入ってきた満員の電車に飛び乗った。朝のロープウェイ運休が気になって、ガイド事務所に立ち寄ると、風は問題無く今日も登頂されているとのこと。また2人追加の予約が入ったので料金は1人当たり95Euroとだいぶ安くなりラッキーであった。ヘルメット・ハーネスは貸与されるが、水・食料は自前で準備とのこと。
稜線に出てからトラバースルートを行く
 翌朝の始発電車でガイドとの待ち合わせ場所のタトランスカ・ポリアンカ駅へ。青空が広がり天候も良好のようだ。約束の6時近くなって、ガイドが車で集まりだした。どうやら何組か纏まって登山口へ向かうようだ。おんぼろの軍隊の輸送車のような荷台にぎゅうずめになって、スリーツスキー・ドム(標高1670m)へ向かう。通常は歩かなくてはならないこの部分の登りをかせげるのは有り難い。この輸送車はガイドツアーの特権のようだが、運賃は別途片道5Euroも払わされちょっと高い。湖畔の山荘が立つ登山口に着くと、北から強風が吹き付けて寒い。山荘前に集まって準備する間、ひげもじゃでいかにも山男風のスロヴァキア人ガイドたちが談笑している。私のガイドは年長組(60歳ぐらい)のヤンさんで、リトアニアから来たという男性2人が加わり4人パーティで出発。湖を回りこんで行くと、強風は部分的でさほど気にならない。滝の横の道を通り、左手の斜面をトラバース気味に登っていく。そしていよいよ岩場への登攀を開始する場所でストップ、ここには標識の類は無く、場所を熟知していないとわからないだろう。ヘルメットとハーネスを装着、4人がアンザイレンで繋がって出発。前後で合計10パーティ位取り付いている模様。直ぐに高度感のある岩場に足場となる金属の杭が設置された難所があり、ガイドが先行して1人ずつ確保して通過。その先はガレ場状の登りで岩角にザイルを絡ませながらどんどん高度を上げる。何となく踏み跡があってさほどの困難は無いが、見上げる岩壁は迫力満点だ。日が昇るとTシャツ1枚でもかなり暑くなる。しかし同行の2人は私より山慣れていない感じで時々疲れたと言って休憩を要求するので、ガイドのハイペースに苦しむようなことも無く、スイスのガイドみたいに厳しくないので楽だ。
ゲルラホスキー山頂への稜線ルートからの登山者
十字架の立つゲルラホスキー山頂

バチツオフスケ谷の安全圏へ下りついて、ルートを振り返り見る
 稜線に出ると反対側はカールの急峻な岩壁が落ち込んでいて、谷を隔てた山脈の姿が目に飛び込んでくる。右手方向はKotlovy Stit(2601m)山頂の姿がありかなり高度を稼いだので山場は過ぎたのかとも思うが、実はまだ最高峰の山頂は遠かった。登ってきたのと反対側に回り込んでトラバース気味に進み、Kotlovy Stitから伸びるリッジを乗越す。高度感がある狭いバンドが連続し、これまでより緊張する場面もあり、リトアニアの2人はあまり岩場に慣れていない感じで通過に時間がかかる。途中小さな岩穴があり、ゲルラッハの窓というそうだ。思いの他かなり下っていくのでかえって頂上が遠のいた感じがする。ルンゼのガレ場に下りきると頭上が山頂であり、何となく踏まれた跡をたどって最後の登りをがんばると待望の山頂だ。狭い岩上にあまり大きくなく凝った形状のフレームが付けられた金属の十字架が立ち、横の岩には山名とスケッチが描かれた金属のプレートがはめこまれている。先着数パーティで混雑していたが、彼らが下っていくと余裕ができて場所を変えながら写真を撮る。はじめは何も見えなかったが、雲が流れ出して周りの奇岩が連なる稜線が見え出し、稜線上を頂上までたどってくるパーティの姿が見えてきた。稜線上のルートは我々が来たトラバースルートよりグレードがワンランク高くなるようだ。この最高峰はポーランド側とスロヴァキア側の骨髄稜線ではなく、Lavinovy Stit(2606m)のピークから南に張りだす稜線上にある。登ってきたVelicka谷側はストンと落ち込み、谷間の平坦な草原がほとんど真下に見え、宙に浮いているような感覚だ。時々雲が切れて両側の谷を隔てて隣接する稜線の山々まで視界が得られた。
 下山ルートは登ってきた時と反対側のバチツオフスケ谷に下る。ルンゼ状の岩場はガイドの案内がないとルートが皆目分からない感じ。ガイドが最後尾になりリトアニアの2人が先、スリップを警戒して慎重に歩を進める。途中固定ロープのある被り気味の岩場の下降では1人ずつ確保して下る。最後に谷に下る部分も垂直の岩場になっていて要注意。傾斜の緩い谷に降り立ち、やっと緊張から開放され安全圏に出る。モレーン状の台地でザイルを解き大休止。振り返ると険しい岩壁が聳えていて、一体どこを下ってきたのかわからない。再び青空が拡がってきて、Batizovsky Stit(2448m)を筆頭に谷の両側にそそり立つ岩峰群が見渡せるようになった。山頂で晴れなかったのは残念、それだけ気象変化が激しい所なのだ。下に見えるバチツオフスケ湖まで下るとハイキングコースに出る。ここを歩いているのはそこそこ長時間歩く気合の入ったハイカーと思われる。
出発地のスリーツスキー・ドムにようやく戻ってきた
なにやら人々が集まっていて何だろうと近づくと、野生のキタキツネ[Red Fox]が出てきていた。結構人馴れしているようだ。そういえば今回はあまり山深いところに行ってないので、野生動物との出会いはまだ無かったなあ。緩やかな道といえども朝からの行動で疲れが出てくる。しかしガイドからあまり離れないようにと、展望や花々にも励まされて歩き続け、眼下に出発地となったVelicke湖とロッジが見えてくるとまもなくゴールだ。朝は締まっていたので判らなかったが、ここに建っているのは山小屋ではなく新しいホテル。送迎車が来るまで中の綺麗なロビーで休憩。売店でこの国のオリジナルだよとガイドに進められたKOFOLAという生ビールジョッキ入りドリンクを購入。アルコール無しの炭酸飲料で甘さ控え目、お茶がわりにもなるコーラという感じ。チェコスロヴァキア時代からある人気のドリンクのようで、確かにレストランでも料理と一緒に生ビールでは無くKOFOLAを飲んでいる人を良く見かけた。ガイド料を払ってお礼を言ってここでヤンさんとお別れ、チップも受け取らずシャイな人物であった。後半のメインイベントである登頂を無事クリアして一安心。まずは部屋に置いてある赤ワインで祝杯をあげよう。

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