のびやかな山村カルスからグロースグロックナー(3798m)登頂
年月日 2013年7月21〜22日
天気 朝のうち雨、のち晴れ
タイム Dolomitenhotel(6:00)…Lienz Bahnhof(6:20/6:40)=[PostBus]=Kals-Kodnitz(7:30/8:05)=[Taxi]=Lucknerhaus(8:20/8:28) …Lucknerhutte(9:12)…Studlhutte(10:40/11:30)…Erherzog-Johann-Hutte(13:48/15:00) …Grossglockner(Summit)(16:50/17:05)…Erherzog-Johann-Hutte(18:30//7:45)… Studlhutte(9:30/10:10)…Lucknerhaus(12:20)

ルックナーハウスから正面に聳える鋭峰グロースグロックナーを目指して出発
 グロースグロックナー登頂ガイドをカルス村にあるガイド会社に申込み、事前のメール確認にて、ガイドと午前中に合流するために、リエンツを朝6:40のポストバスに乗りカルスから登山口のルックナーハウスまでは朝早いバスが無いのでタクシーを利用しなければいけない。3日前バートイシュルに居た時にもガイド会社と電話で話して、天気は問題無く予定通り21〜22日にガイドを手配すること確定してもらった。なぜか朝から雨模様でいよいよ本番だというのに心配になる。人通りが無くなった朝の街を見ながら駅へ歩く。鉄道駅にはポストバス路線毎の時刻表が置いてあるので今後のプランにも役に立つ。フーベンで街道を離れてカルスへ行くバスに乗り換える。朝早いバス利用者は観光客は皆無で地元の人ばかりで、仕事に行くのか皆無口で顔なじみらしき運転手に挨拶して次々下車していくので途中から私一人になった。タクシーの件は電話で予約しようとしたが、英語がうまく通じず運転手に相談すると、親切に村中心部のバス停前のホテルの人に話をつけてくれ、この場所に8時に迎えに来てくれると告げられた。一時やんでいたが再び降りだし標高1200mのカルス村も雨模様。教会の隣に近代的なビジターセンターがあるがこの時間はまだ開いていない。残念な天気かと思いきや意外に上の方は晴れている様子。低い土地に湿った空気が溜まって降っているなら山の方は大丈夫そうだ。ホテルに泊まっていたらしい山の格好のグループが来たので尋ねてみると、グロースグロックナーの周りを小屋泊りで一周する一週間程のトレッキングに出発するそうで、ツールドモンブランとかオートルートのようなコースがこちらにも有るようだ。タクシーの運転手が迎えに来て、別のメンバーと6人程でワンボックスカーに同乗して出発。同乗者はグロースグロックナーとは別のハイキングコースを登る予定だそうだ。登山口となる標高1900mのルックナーハウスまで15分、前方に氷河をまとった三角形の鋭峰グロースグロックナーが朝日を浴びてばっちり見えた!山の天気は大丈夫そう、おまけに送迎車はホテルの宿泊者と同乗だった為か料金請求もなくラッキーであった。こういうのは正に案ずるより生むが安しという局面か。ここに来る人はほとんどマイカーであり、一軒の大きなロッジが建ち大自然に包まれてなかなか魅力的な所だ。
後方にホーエタウエルンの山々がせりあがってくる:左端の双ピーク右側の三角の山が後日登ったベーゼスヴァイブル
 登山口のパノラマ図案内板に付近のコースが示されている。ガイドと落ち合うのはシュテュドゥルヒュッテ、間違えないようにコース番号を確認。全てのコースに番号がつけられ、国内で統一された黄色の道標が道の入口や分岐点に設置されているので安心して歩ける。コース番号は702B、コーディネッツ谷の川沿いに正面にグロースグロックナーを見ながら一般車進入禁止の林道を進む。全荷物を背負っているので軽量化したとは言え結構重たい。代表的なコースらしく、家族連れやグループなどたくさんのハイカーでにぎわっている。2241mのルックナーヒュッテに1時間を切って到着、順調なペースだ。この先は車が通れなくなるが、良い道が続いている。傾斜が急になってくると川はスラブ状の岩場を滝のように流れるようになり、左よりに進路を変えて高度を上げていく。背後に3000m級のホーエタウエルンの山々が見えてくる。雪渓も残り迫力ある山容の魅力的な山々であるが、山の名前は後でゆっくり確かめることにして今は待ち合わせに遅れないよう先を急ぐ。稜線に出るとすぐ近くにシュテュドゥルヒュッテ(2802m)が建っている。形が現代アートのようにユニークなもので、筒状の片方の断面が流線型の楕円弧状なのに対し反対側は垂直の平面である。強風の際に風の流れをスムーズにする効果を考えたように思う。ここまでガイド会社から所要2時間半と聞いていたが、荷物や暑さにもめげず早めのペースで来ることができた。若い小屋のスタッフに私のことが伝えられていて声をかけられ、ガイドが到着するまで席で飲み物でも飲んで待つように言われた。テーブル席に着くと何かしら注文するのがこちらの礼儀みたいで、お勧めの花(名前は忘れた)の香り付きの水を注文。ジュースと違って超薄味であるがナチュラルテイストだ。
 ガイドはそこそこ年配の男性で名前はジョージ(発音はチョージと聞こえる?)、この国のグラーツ在住の若い夫妻と私の3人がクライアントだ。奥さんはスウェーデン出身だとか、そう言われるとどことなくラップ人の雰囲気が漂うような気も。だんな様は来日経験あるそうで横浜もご存知であった。昨晩はこのヒュッテに泊まったそうで、ゆっくり順応して本日に備えている。レンタル装備のハーネス・アイゼン・ヘルメットを受け取り、不要な荷物はこの小屋に預けて軽くする。エルツヘルツォークヨハンヒュッテ(小屋が建設された当時のヨハン大公にちなんで命名)へは統一された黄色の道標にSTEEPの表示があり上級コースであることを示している。またLuisengratという稜線を直接山頂に登るよりハイグレードなルートについても案内板があった。稜線の右側を巻いてゆるやかに登っていく。歩く人も多くてよく踏まれているので特に困難は無い。夫妻とガイドはドイツ語であれこれ話し込んでいて、何を話しているのかはわからない。時々私にも英語でコースや周りの眺望のことをひとことふたこと説明してくれたが、ガイドと合流後はおまかせという状態で予備知識が無くて上のそらという感じだった。前方には三角形の山頂の肩に建つ本日泊まる小屋が見えてきた。その手前には所々クレバスが牙をむく氷河と岩が露出した急な登りが立ちはだかっている。氷河の手前でアイゼンを装着しガイドがロープを出してここからはアンザイレンで進む。
シュテュドゥルヒュッテを後にする:左の岩山はフレイバンドスピッツエ ルートは前方の氷河を横切って右側の岩尾根に取り付く:左の大きな山がグロースグロックナー

 氷河を斜めに登りながら横断する形で、対岸の岩場の取り付きを目指してして進む。ガイドは氷河の登り易い所を熟知しているので迷うことなく進んでいく。何か所か小さいギャップを飛び越す所があったが容易に通過できた。パーティによって氷河上を歩くルートは多少違っていて、場合によってはもう少し苦労することになるのかもしれない。氷河を終えた所は、雪のブリッジを渡って急な岩場に取り付かなくてはならず、少々緊張するところだ。小屋を目指して岩場をぐんぐん登る。確保用に鉄杭やヴィアフェラータのワイヤーが随所に設けられ、ガイドが支点を取って安全確保してくれるが、易しい岩場なので特に難儀するようなことは無い。途中でグロースグロックナーの氷河を望む観光地フランツヨーゼフスヘーエ方面からの稜線と合流し、その方面からの別コース分岐を示す黄色の道標が立っている。初登頂者がとったルートにほぼ近いのだが、距離が長いため登山者の姿は見当たらない。グロースグロックナーを目指すほとんどの登山者はカルス側から登るようだ。若干高度の影響を感じつつも順調に2時間強でエルツヘルツォークヨハンヒュッテ(3454m)に到着。アドラースルーエ(鷲の休息)という肩の台地ぎりぎりに立っていて、入口付近は工事中で狭いうえに騒音がうるさい。風もなく暖かいので外のテラス席が欲しいところであるが、落ち着ける場所が無くガスが出てきて山々の眺望も隠れがちなので、小屋の中に入ってラガーと表示された寝室(ビールではなくて雑魚寝の大部屋をラガーという)の場所を確保してから食堂でのんびりすることに。ジョージは多数のガイド仲間が来ているので小屋内をあちこち廻って立ち話している。今日の予定はこなすことができたと安堵して、2人のクライアントや他の登山者とコーヒーなど頼んで行動食をつまんでゆっくりしていた。するとジョージが来て、クライアントは元気そうだから、様子を見て晴れてきそうだったら今日のうちに頂上を往復したいと言う。てっきり明日アタックのつもりだったので心の準備ができておらず、スタミナが足りるかとか、朝の方が展望が良さそうとか思い自分はちょっと躊躇したが、他の2人は特に否定しなかったし明日の天気もわからないので、ここは同意するしかなかった。結局15時に再び装備を身に着けてアタックに出発。
ナイフリッジを行く:後方はフランツヨーゼフスヘーエ方面へ続く稜線 山頂付近からクライングロックナーの稜線やヒュッテを望む

 平たい岩がごろごろした平らな尾根を少し進むと、雪の斜面が現れ頂上稜線の北側に残る雪の上にルートが作られている。暖かいので雪が解けて川のように水が流れ落ちている。ガチガチに凍っているよりも歩きやすいと思うが、2人は私よりも雪上歩行に慣れていない様子で、時々ゆるんだ雪に足を取られていた。稜線に出る手前は岩場と雪の混じった急斜面で、私のストックはデポして両手を使って登り、ピナクルの所で稜線に出て、ここでアイゼンもはずしてデポする。いよいよハイライトの岩場の稜線を頂上へ向けて1本のロープに3人つながってツルベで登る。足場は豊富にあり確保用の鉄杭が一定間隔で設けられている点は安心、でもバランスを崩したら他の人を引っ張ってしまうので慎重に進む。ジョージに私のカメラを渡すように言われ、彼は3人の登攀の様子を写してくれた。写真にするとさほど迫力あるシーンでもなかったが、登攀中に変に写真を写そうとして危険にさらされない為の気遣いかもしれない。頂上十字架も目前となりクライングロックナー(3770m)という前衛ピークに登り着く。ここからナイフリッジを経て一旦鞍部へ下るところが核心部。雪が残っている上に左右はスッパリ切れ落ちているのでバランスを崩したら大変だ。ガイドは我々が進む前に浮石を除去したりや雪上の足場をならすなど5分ぐらいかけて歩きやすいように整備してくれた。
山頂の雄大な景観:眼前はホフマンズスピッツェ、右の氷河の奥にアイスケーゲレとヨハニスベルグ 山頂の雄大な景観:パステルツェ氷河とその奥にグローサーベーレンコップフやホーエドック

鞍部から最後の岩場を通過して有名な十字架の立つ山頂に到着。パーティ4人で握手をして祝福した後、360度の周囲の雄大な景観を堪能する。眼前には隣接する岩峰のホフマンズスピッツェ(3722m)、その奥から右下へと迫力あるパステルツェ氷河の流れがフランツヨーゼフヘーエの展望台方面へと続く。氷河の上部は広大なアイスフィールドとなって、アイスケーゲレ(3426m)やヨハニスベルグ(3453m)などの岩峰が頭を覗かせ、何とも雄大な景観だ。午後に湧いてきた雲が流れて周辺の第2の高峰グロースヴェネディガーに向けて遠方に続くアルプスの展望は遮られてしまった。これが朝の雲一つない快晴の展望だったらひとしおだろうというのがちょっと心残り。小屋から山頂まで2時間近くかかり思いの他大変であったが、体力的には限界を感じる所まで行かずに無事登頂できたことで何よりも安堵の気持ちで一杯である。15分の祝福の時間を過ごして下山にかかる。岩場は下山の方がむしろ危険であり慎重に進む。夫妻は雪道の下りがあまり得意ではなく、足を滑らしてひやっとした場面も。稜線をはずれて雪の急斜面に入った所は特にスローなペースとなった。オレンジ色の小屋が次第に近づいてくるのが励み。この時間になると雪解けは収まり水の流れは消えていた。
小屋の朝の展望:遠くグロースヴェネディガー方面の朝焼けやグラナートシュピッツ山群など 小屋の朝の展望:ショーバー山群の山並み、ホッホショーバー,ロータークノップフ,ペッツエックなど

小屋の朝の展望:グロースグロックナーを見上げる
18時30分に無事小屋に戻り、装備をはずして食堂で夕食タイム。山小屋ではスープ〜メイン〜デザートのメニューが決まっているので、レストランのように注文に悩む必要ない点が良い。登頂も済ませて気分的にはとても余裕ができて同じテーブルについた人たちとも話がはずむ。当然生ビールを注文、二杯目は周りの人が飲んでいたレモン果汁入りにした。酸味がきいてなかなかいける。ワインにウイスキーにと飲み物には事欠かないが、それらは下山後のお楽しみとする。メイン料理はパスタと牛肉がこれでもかと山盛りで、味付けが相当に塩辛くて全部食べるのはひと苦労だった。チロル地方の食事は全体に塩辛い印象だ。食べ物はやはりイタリアか。ピッツペルニナのイタリアの山小屋で食事が美味しかったことを思い出す。明日下山してからリエンツの町は暑いのでルックナーハウスに泊まりたいと言うと、ジュージが電話でシングル2泊を予約してくれた。これでしばらくは宿を気にしなくて済む。朝6時にリエンツから行動開始して登頂まで達成した長い一日を終え、今晩は安心してぐっすりと寝る。
 早朝5時過ぎには明るくなり雲一つない快晴だ。アタックする登山者が前後して出発していく中、私は小屋のまわりから朝焼けの山々を撮影。ホッホショーバー(3242m)、ロータークノップフ(3281m)、グレーディス(3206m)、ガノット(3104m)、ペッツエック(3283m)、等々ショーバー山群の山々が鋸の歯のように多くの凸凹のピークを連ねている。山頂の左側の遠方には、おそらくグロースヴェネディガー(3666m)からワイススピッツェ(3300m)にかけて大きな氷河にどっしり腰を据えた岩壁のピーク群が朝日に輝いている。その手前にはグルーサームンタニッツ(3232m)を主峰とする中間のグラナートシュピッツ山群が長く横たわっている。小屋の反対側にまわると昨日山頂から眺めたパステルツェ氷河の奥のグローサーベーレンコップフ(3396m)やホーエドック(3348m)の先にひときわ高いピーク、グローセヴィースバッハホルン(3564m)が聳えていた。山頂には及ばないにせよ小屋からの景観もすこぶる感動的だった。簡素な朝食(町と違いコーヒーおかわりが自由にできないのが寂しい)の後、ザイルで結びあって注意深く往路を戻る。シュテュドゥルヒュッテでジョージとお別れ、彼は別の客と再び山頂へ向かうのだ。シーズン中ずっとこのピストン操業では気の毒だが、スイスアルプスなどいろいろな山のガイドに行くと言っていた。3人グループのガイド代は1人当り195Euro、切りの良い所で200Euro渡す。そしてお二人と一緒にルックナーハウスへ向けて下った。前方に連なるホーエタウエルンの山々は谷を下るにつれ周囲の岩壁に隠れていき、気温も上がって汗ばんでくる。観光客の多い林道を避けて沢沿いの遊歩道をたどり、大駐車場の横を通って昨日の出発地点だった案内板前に下りついた。

続きを見る
オーストリアの山旅のメニューに戻る
トップページに戻る