「わたしの一名山」(双葉社刊)を読んで とっておきの山というテーマで公募した作品集。選考委員、椎名誠氏、他。このよ うな原稿が募集されていたことは知りませんでした。それぞれの人生に、それぞれ の一名山、山は語り、私たちは想う...というサブタイトルにも惹かれ読んでみ ました。 私はたくさんの山に登っていると、どの山もそれなりに楽しみと喜びがあって、そ の中から最高の1つを選ぶなんて難しいと思います(かの深田氏然り)。しかしこ こにとり上げられた作品は、作者の特別の思い入れがこめられた山が表現されてお り、そこには、亡き人の想い出や遭難寸前の体験,不治の病に立ち向かう姿など、 作者の人生にとって重大な意味があるドラマチックな世界が展開され、あるいは非 日常の珍しい体験、今となっては起こり得ない幼い頃の想い出話などが紹介されて いたりします。 この本の中で私が気に入った一名山のタイプは、口太山(阿武隈),旭岳(那須連峰), 寸門岳山スキー一周の3つです。いづれも達成には結構な困難が伴うのですが、作 者がふとしたきっかけで(麓から見た山の格好が気に入ったとか、山名の由来や歴 史に興味を持ったとか)征服したいと思いはじめ、何回か失敗しながらも、この山 にはこだわり続けるというものです。 とっておきの名山とは主観的なものであり、他の人にとって同じ名山にはなり得な いものだと思います。それでも、本書を編集するきっかけとして、みんなの思い出 を追体験しようとすることが目的と記されています。作者と同じような感激を追体 験しようという姿勢から、自分なりに新たな感動や教訓を得るということに意味が 有るということなんだと思います。 読んでいるうちに、山を愛する人ならば誰にでも一名山はあるんだと感じてきまし た。この本の続刊の原稿が募集されているということです。それに応募するに値す るような、おもしろい奇抜なエピソードになるかどうかはわかりませんが、自分の 一名山ってどの山なのかみんなで考えてみるのは、とてもおもしろいことだなと思 いました。