カナディアンロッキー ワプタアイスフィールドトラバース1

 6年前の夏のカナディアンロッキーの景観が忘れられず、ぜひスキーにも言ってみたいと思っていました。E社のプランに永年勤続休暇を利用して参加。ヨーロッパのオートルートにも列び称される、カナディアンロッキーの代表的スキーツアーコースです。転勤の引越し直後という忙しい状況でしたが何とか準備して行ってきました。天候はいまひとつパッとせず、ホワイトアウト状態にも見舞われましたが、無事予定のコースをスキー走破できました。アイスフィールドの岩峰を横目に滑る醍醐味は日本ではちょっと味わえないものでした。
 トラバースというのは登山用語の斜めに登る意味ではなく、横断旅行の意味で使われています。同行の富山のTさんが開設されているホームページ「富山の山登り」に今回のレポートが載りました(http://www.nsknet.or.jp/eat2/)。現地のガイドを担当したヤムナスカ登山学校にホームページがあります(http://www.yamnuska.com)。地図はTouring the Wapta Icefields(1/50000)が発行されています。岳人別冊雪世界1999にも記事があります。

期間 2000年4月1日〜4月8日
ガイド 現地ガイド:パット, アシスタントガイド:Oさん (ヤムナスカ登山学校)
参加者 Tさん(@富山),Uさん(@北九州),私
装備 山スキー一式,兼用靴,ロープ,ハーネス,ビーコン,シュラフ,食料

年月日 2000年4月1日(土)
タイム 成田空港(20:50)→(CP-004)→バンクーバー(12:15/14:15)→(CP-674)→カルガリー空港
(16:40/18:30)=(バンフエアポーター)=キャンモア(20:00)

 E社の石坂さんに空港で説明を受けた後、3名でカナダに向かう。前よりずいぶん豪華になったバンクーバー空港乗り継ぎで、カルガリーまで荷物のトラブルも無く到着。自分達でBanff Airporterの往復切符と帰りの便の予約を行う。次のチケットは1名分しか無く30分後のに乗る。このあたり手配されていないのはE社ならではであり、個人旅行派には良い経験だ。来たのは運転手含め8人乗りのリムジン、これではすぐに満席になってしまうわけだ。ホテル(ジュージタウン・イン)の前で降ろしてくれる。
 ヤムナスカのOさんに迎えられ、チェックイン後ヤムナスカのオフィスへ行き、コーヒーなど頂きながらチーフガイドのパットと共に簡単なミーティングを行う。Oさんが通訳してくれるので楽だ。パットは40代くらい?の気さくで親しみやすいガイドだ。ツアーについてのリクエストを聞かれ、ピークハントと滑りの両方を楽しみたいということになった。外は雪が舞っており天候が気がかり。変わりやすい天候が続いていて、こればかりはわからない。気温が低めで北西風なので回復傾向かもという。4日目のバルフォア・ハイ・コル越えがポイントで、天候次第ではボウレイクに戻る可能性がある。一般的に90%は越えられると言っていた。積雪量は小屋前で1.3m、氷河では3m程度でコンディションは良いという。明日は朝8時集合の予定。
 同行のTさんは、富山県在住で山スキー経験も豊富。福岡のUさんはゲレンデスキーは得意だが山スキーは初めて、若いのでこれを期に山スキーヤーに転身してくれないかな。

年月日 2000年4月2日(日)
天気 晴れ
タイム キャンモア・ジョージタウンイン(8:30)=ヤムナスカ登山学校(8:35/9:20)=レンタル(9:25/9:55)
=ボウ・レイク1900m(11:00/12:40)…ボウ・ハット2360m(16:15)

ヤムナスカ登山学校
 くっきり晴れ渡り周囲の山が見事。車や屋根の上は雪が積もっている。ところで本日からサマータイムがはじまり時計が1時間進むことを知らずに、見事寝坊してしまう。そういえばホテルには、Nice Breakfastを食べそびれないように時計の針を1時間進めておくのを忘れないように、との掲示があったが、昨夜はあわただしくて気にとめなかった。慌てて朝食を済ませ、迎えの車でヤムナスカへ。
 キャンモアのシンボル的な三山、スリーシスターズが目前に仲良く並んで聳えている。食料の分担、装備のチェックの後、送迎車で出発。Uさんのゲレンデスキー(セキュラフィックス)ではきついということで、近くのレンタル店でツアー用スキーセットを借りることになった。こちらではダイナフィット(オーストリア製)超軽量バインディングが主流。Oさんもこれを使っていてなかなか良いとのこと。日本ではディアミールが花盛りで、私も今シーズンからそれに変えたばかり。こちらは一歩進んだ感じ、日本ではまだ信頼が得られておらず普及していないようだ。ダイナフィットの短所は、専用の靴が必要な点とディアミールよりは操作性が劣る点。
スタート地点のボウ・レイク上を横断
 バンフ〜レイクルイーズと、94年夏に来たなつかしい道を走る。これでもかと次々に現れる断層の山々。夏の景観は岩山が中心だが、今は積雪をまとい一段と迫力が増す。前回私が2週間滞在して帰りたくなくなった話をすると、Oさん曰く「2週間程度が限界、それ以上居ると私のように帰れなくなりここで生活することになるだろう」。
 カラスの足形に見えるクロウフットグレイシャーの少し先、ボウ・レイクのロッジに到着。バスの観光客でちょっとした賑わいだ。ハイウエイを隔てたドロミテ・パス〜サークピーク方面は、のびやかなクロカン向きの東北の山を連想させる。早くスキーをはきたい気持ちを抑えて、1時間ほどビーコン捜索訓練を行う。3月の西朋の山行に続き2度目の体験だが、ビーコンの機種による違いがあり一筋縄ではいかない。
 シールを付けやや重たい荷物を背負って、まず氷結したボウレイクの上を横断。正面にロッキーには典型的な山容のMt.トンプソン、その横は白い平原のワプタアイスフィールドの一角が覗き、ボウ氷河となって落ち込んでいる。
ボウハットから見るワプタ氷河末端の岩壁
下山してくるスキーヤーも多い。パットと立ち話を始めた初老の男性は、バリーブランチャゴというロッキーの名クライマーらしいが、私には名前は初耳だった。一度右側のかなり上方で雪崩発生を見る。昨日の新雪と好天で要注意。この先幅の狭い谷間を通過するため、雪崩を警戒してパットから前の人と50mほど間隔を空けるよう指示される。
 沢筋が広くなった所から、左側の台地へ登っていく。展望も広がり、滑降はパラダイスの世界にやってきた。カール状の雪原を回り込んで登っていくとボウハットに到着。広い食堂にストーブやテラスもあって快適。周囲を山に囲まれた好立地、特にワプタ氷河から切れ落ちた目前の岩壁は、地形図上に名前も無いが印象的である。人跡未踏のルートがいくつも存在するのだろう。次第に雲が増えてきてはいたが、この日は夕刻まで周囲の山々が見渡せ、ヒトデ状に複数の突起がある特異なジミーシンプソンなどピーク名を確認しあった。
 小屋は結構多くのパーティーで賑わっていた。合計20人強、加えてヤムナスカ登山学校の雪上訓練の大パーティーが登ってきたが、彼らは小屋の上部でテントと雪洞泊だそうだ。タコス風の夕食はOさんが手際よく準備してくれた。キャンモアで買ったローカルビールにも良く会う。こちらの人は、あまり山にお酒を持ってこないそうだ。パッドもお酒は止めたというし、ヘルシー指向で若者の間でも禁煙禁酒が流行っているという。カナダ山岳会設立の無人小屋ながら、食器にプロパンガス完備、排水処理のルールも決められ、マナー良く使われている。ワプタトラバースはペイトレイクから入山して、1日目はMt.トンプソンの近くのペイトハットに泊まるのがクラシックコースだが、新しくボウハットができて、この小屋に泊まるのが主流になったそうだ。

年月日 2000年4月3日(月)
天気 曇り一時晴れ間
タイム ボウ・ハット(8:48)…弱層調査2900m(11:40/13:00)…ゴードン山頂3200m(13:40/14:08)
…ボウ・ハット(14:42)

ボウ・ハットからセントニコラス・
ピークを仰ぎ見る
 今日はこの快適な小屋に滞在する日。一帯では最も高度のあるMt.ゴードン頂上を目指すことになった。曇り空ながら山の稜線は何とか見えている。朝食もゆっくりとる時間があった。小屋の目の前に聳えるセントニコラス・ピークを回り込むように、緩傾斜部を選んでシール登高で高度を上げていく。
ワプタアイスフィールドの景観
セントニコラス・ピークは登るにつれ槍ヶ岳のような鋭い突端を見せてくれる。やがてワプタアイスフィールドの大雪原の一角に出る。振り返ると、平らで真っ白なアイスフィールドを隔てて、雲の間からMt.トンプソン,Mt.ロンダなどが顔を出している。こういう雄大な景色は日本では味わえるものではなく感動的だ。
 しばらく平らなアイスフィールド上を行く。クレバス帯も見られるが、それを大きく避けてアンザイレンせずに進んだ。正面のMt.ゴードンは大きくなだらかな形の山で、頂上直下に少しクレバスと岩が見える他は真っ白だ。左にはMt.オリーブ、印象に残る名前であるがここから見ると、何と言うか古墳?のような盛り上がりを見せている。
Mt.ゴードンへ向かう途中で雪層調査
 2900m位まで登ったところでガスが出て視界が効かなくなった。パットは、今日はこの辺までかと言う。我々は頂上まで行けないのが残念に思いながら、まだ時間もあるので大休止。パットはスコップを取り出し、弱層テストの穴掘りを始めた。Oさんを始め我々も少し手伝う。後からボウハットに居た若い男女3人(後でカナダBC州から来たとわかる)が来て手伝ってくれた。パットはSnow profileノートに雪質の異なる層構成を克明に記録している。1時間以上かけて2m以上掘り進んだが、さらに下に万年雪の層が続いている。
 そうこうしているうちにガスが晴れて、また頂上を目指すことになった。この辺の行動はさすがベテランを感じさせる。雪原にポツンと有る岩の右から小尾根に登ると、これまで見えなかった頂上の裏側はちょっとした崖になっていて、その縁に沿って雪上を登っていく。無事頂上に到達し、先着カナダ隊とともに祝福しあった。雲が多いのとスケールも大きいので、山ははっきりしなかったが、明日以降たどるバルフォア・パス方面、ヨーホー谷やヘクターレイクなどに眺めいった。登頂できるとやはり気分が良い。Uさんは海外初登頂の山となった。
 お待ちかねの滑降タイム。新雪層の下が固くなっていて、注意しないと引っかかって転けるという雪の状態だった。でも途中の平原歩きを入れても小屋まで30分強で全員快調に一気に下った。小屋では、GPSの新兵器持参のニュージーランド5人パーティーや、奥さんが日本人だという陽気なカナダのガイドなどと賑やかに過ごした。
Mt.オリーブ(3140m)
Mt.ゴードン(3200m)

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