フランス ヴァノワーズ国立公園トレッキング(パニック障害を越えて)

ヴァノワーズ最高峰のグラン・カッセ(3855m)

 【月日】 2023年6月30日(金)〜7月13日(木)
 【装備】 登山靴,防寒服,雨具,ストック,スリーピングシーツ
 【メンバー】 Kさん夫妻、私
 【参考】 現地地形図,WEBSITE 現地国立公園 山小屋・登山情報・旅行会社案内,他

 フランス サヴォア県 フレンチアルプスのヴァノワーズ国立公園へ、4年ぶりの海外トレッキング。ヴァノワーズはフランス南東部、シャモニ・モンブラン山群の南側に位置し、標高3000m以上の山が100以上あるとのこと。その南側にはエクラン国立公園(エドワード・ウィンパー著アルプス登攀記の舞台の一つ)がある。日本ではシャモニ周辺に比べてあまり知られていないが、山小屋やトレールが設けられてフランス人を中心に長期間山歩きの休暇を楽しむ人々が多かった。 過去何回か海外にもご一緒した知人御夫妻が、以前スロベニアのトリグラフ国立公園が良かったので次はフランスの国立公園をと計画を立てながらコロナ禍でおあずけになって、今年やっと行く決意をしたとのお誘いを受け、3人で行くことになった。山小屋利用で7/2〜7/9の8日間歩き、航空機・列車での移動や予備日程を合わせて14日間の旅。ドバイ経由でリヨンまでの航空券を各自購入し、食事付きの山小屋や大部分の宿は知人がネットで予約してくれた。
 私はここ数年パニック・不安障害で山へ行く元気を失う期間が長かったのだが、徐々に遠方への外出にも慣れていき、この機会に病気後の海外初挑戦を決意した。何かと環境が変わることがストレスになるのか、動悸・不眠・辛い感覚などの症状が出てしまった時もあった。深呼吸・ツボ押し・バタフライハグ・EMDRなどストレス対処法を駆使して乗り切った。ハードな山行にもご無沙汰しているので、行動時間が9時間近くになると体力的に厳しかった。幸い天候に恵まれて、休憩時間も長くとることができ、何とか頑張って予定をこなすことができた。
 トレッキング行程の概要は、オッソワという静かな山奥の村から出発、スキー場や人造湖を抜け、コル・ドゥ・オッソワという2914mの峠を越えて反対側のプラローニャン・ラ・ヴァノワーズ1420mという山岳リゾート村まで4日間。ホテルで一泊の後、再び4日間の山歩き。コル・ドゥ・ヴァノワーズ2517m、コル・ドゥ・ロシュール2911m、コル・デ・フール2979mと3つの峠越え、最後に峠近くのポワント・デ・フール3072mというピークを踏んで、ボンヌヴァル・シュル・アルクという村へ下るというものだった。

 1.体調不安を抱えながらフレンチアルプスへ
年月日 2023年6月30日〜7月1日
天気 1日 曇り時々晴れ・にわか雨
タイム 羽田空港(0:20)→EK313→ドバイ国際空港(5:50/9:20)→EK081→リヨン・サンテグジュペリ空港(13:55/14:54)=リヨン・パールデュー駅(15:30/15:55)…YASI Hostel(16:10//9:00)…Lyon Part-Dieu(9:15/9:53)=TER18507=Chambery(11:20/11:30)=TER883309=Modane(12:55/14:00)=Aussois(14:15)…La Roche du Croue(14:25)

 今年になって体調は安定してきて海外旅行を決意したのだったが、国内の遠出よりもストレスは強力のようで、猛暑による疲労感も加わり出発前から動悸・不眠・血圧上昇といった症状が出てきて、大丈夫かと不安を抱きながら羽田へ向かう。同行のお二人と会って話していると多少気が楽になった。ただでさえ眠れない長時間飛行、隣の窓側にでかいアラブ人2名が居て2時間おきにトイレに行くのでよけい眠れず。ドバイでは現地時間早朝なのに気温40℃とかで驚く。リヨンに着くと気温20℃でホッとする涼しさだ。駅に近くて安い相部屋のホステルを予約していた。若者ばかりでなく1人旅らしき年配の人も見かける。場所は観光地と反対側で特徴無く殺風景、警官の少年射殺事件に抗議する暴動が発生しているとかで近くの道の真ん中に丸焼けのバスが放置されている。パールデュー駅はとても混雑していて明日乗車予定の自由席の切符を買うのに1時間も並んだ。近くにはテイクアウトっぽいピザ屋さんぐらいしか開いて無くてどこで食事をとるか迷う。夕方はバーで酒を飲む人が多く、レストランの夕食が始まるのは遅い。そういえばスペインもレストランは遅かったがバルで食事ができた。何かと勝手がわからず疲れたが、近くのレストランでようやくビールで乾杯、ラピオリで満腹になった。
山奥の終点モダーヌ駅前の風景
 暴動が過激化していて夜8時以降は公共交通が運行停止とか。夜中には時々デモ隊が通過して爆竹とバイクの騒音にサイレンが鳴り響き、時差もあってますます眠れない。フランスの宿は朝食が簡素なのだそうで、ジュース2種類とコーヒーにバゲットを自分で切ってリンゴを丸かじりする。リヨン駅からフランス国鉄に乗車。シャンベリーまでの2階建て快速列車は乗客が多く満席、乗り継いだ普通列車は昔からのコンパートタイプで空いていた。この列車移動でストレスが加わったのかまた不調が出てしまった。ずいぶん山奥までやってきた来た感じの終点モダーヌ駅は、ロッジ風ホテルが並び、雲間に雪が残るピークが聳え、リュック姿の登山客が目立つ。意外にもトンネルでイタリアへ抜けるTGVが停車する。気分悪く風情をあまり楽しめないままバスで今回のトレッキング出発地のオッソワへ。
 標高1400mでスキーシーズン以外は寂しい山村、風が吹き抜け肌寒い。予約した宿のチェックインが17:00となっていて、雨も降ってきて外で待つのは寒く、私は近くの暗い教会の中に入り込み防寒着を着て横になって休む。こんな所で寝ているとまるで死人になったみたいでよけい気分悪いので最後の手段、副作用が心配でずっと絶っていた精神安定剤をついに飲んでしまう。これで少し楽になった。同行者は明日のコース確認をしてからカフェで時間つぶしたそうだ。スーパーで明日以降の行動食をちょっと仕入れる。荷物を減らすためランチもなるべく途中の山小屋で食べることにする。宿はオプションで夕食も提供してくれ、宿オーナーの若い夫婦と他の夫婦1組と一緒にテーブルを囲み、家庭的な雰囲気で手作りの郷土料理とデザートがとても美味。特製ワインボトルもサービスだったが、精神安定剤を飲むと禁酒なので悔しいことに私はお預けとなった。最後に食後のレモンリキュールまで出てしまい、量が少ないから良いことにする。宿の若奥様は、日本人のお客は初めてで嬉しいと言って一緒に記念写真に写ってとリクエストされる。そういえば旅行中、いろんな人に日本に興味があって行きたいとか行ったことあるとかよく言われた。

 2.お花畑と野生動物に迎えられて峠越え〜トレッキング1−4日目
年月日 2023年7月2日〜7月5日
天気 2日 曇りのち晴れ、3日 晴れ時々霧、4日 晴れ、5日 晴れ・にわか雨
タイム La Roche du Croue(9:00)…ダム湖の展望台(11:15/12:15)…Refuge de Plan Sec(13:50//8:30)…Refuge de la Dent Parrachee(9:40/10:35)…Refuge du Fond d'Aussois(12:35//7:20)…Col d'Aussois(10:14/11:15)…Ritort[車道に出る](14:35/14:40)…Refuge du Roc de la Peche(15:10//8:15)…Pont de Gerlon(10:30/11:05)…Hotel de La Vanoise[Pralognan-la-Vanoise](12:10)

 薬のおかげか夜半まではぐっすり眠れたが、その後はあまり寝付けず。朝食は手作りジャムにフルーツが楽しめた。前半のトレッキングは3日目を除いてかなり余裕ある計画で、後半に備え体を慣らそうという考え。今日は標高差900mをゆっくりのペースで登る。スキー場のリフトも利用できるそうだが、乗らずにゲレンデを歩くと、道が交錯してわかりにくい。Kさんは2.5万図を持っていて私はGPSアプリのMAPS.COMを必要に応じてチェックする。歩いている時はストレスが解放されるのか症状はあまり出ないのだが、調子良いときに比べれば疲れを感じる。
草原がアルペンローズの赤に染まっていた
 2つのダム湖を過ぎると付近まで車で来れるので家族連れなどハイカーが増えてきた。一面草原の広いゲレンデで、地面が黄色と白に染まるお花畑だ。日本の山で見られるのとよく似た花が多い。朝から雲に覆われていた周囲の山々が次第に晴れてきて、オッソワ村の対岸にもスキーリゾートがあるイタリア国境の山々が見えてきた。最初の山小屋、プラン・セック小屋では奥の狭い部屋を3人で使うように案内された。ほかの相部屋より狭くて暗く居心地が悪い。明日はもっと楽な行程なので今日は気楽な気分、眺めの良い外のベンチで生ビールで乾杯。木作りの水場は流水が噴水のようだ。フランスは日本のように基本的に水は飲用可という文化。用心してスーパーのペットボトルの水を飲むが、それも硬水なので同じことだ。お湯は出ないけれども無料のシャワーもある。
 夕方までに次々と宿泊客が到着、小屋はほぼ満員のようだ。夕食はテーブルが指定され、全員揃ってスープ、パン、メインディッシュと取り分けていく。隣のUSAのグループはボトルのワインをがぶがぶ飲んで賑やか、連日そこそこ長い距離を歩いているそうだ。サヴォア県はチーズの名産地で、3Euroのグラスワインと一緒に美味しく頂く。デザートはフランス風のクレムブリュレで、カスタードにリキュールをフランベして出てくるという凝りよう。食事が素晴らしく短時間で来れてスタッフもフレンドリーなので、とても人気の山小屋のようだ。この内容で53.6Euroというのは良心的だ。今回の山小屋代は2食付きで一泊50〜70Euro内に収まっていて、日本の北アルプスよりは安い。
 パンかシリアルの簡素な朝食後、出発時に私の傘がみつからず小屋の人にも聞いて探しまわった末、結局自分のリュックの底から見つかる。皆に迷惑をかけてしまい、ストレスも溜まってしまった。予約した山小屋は最短距離だど近すぎるので、標高2500mのパラッチェ小屋へ寄り道して早々にカフェタイム。ネパール人のスタッフがいて、ちょっと会話した後、荷揚げに下って行った。谷を取り囲む山の岩肌が迫力を増してきた。アルペンローズの赤い群落が美しい。下っていくとカールの底、ハイカーが行き交う平坦な広い草原となりいろんな花が見られた。草原の奥が宿泊するフォン・ド・オッソワ小屋、昼過ぎには着いてしまう。標高2340mで昨日とほぼ同じ高度。ハイカーで賑わうテラス席で我々もランチを注文。卵を食べていないのでオムレツを注文、油っぽくていまいち。明日に備えアルコールは控える。ここは国立公園内に入りフランス山岳会の小屋であるが、食事が今一つで昨日に比べて人気がないみたいだ。この日はなぜか気分も体調も悪くて熟睡もできず。
Pointe de l'Echelle(3418m)の雄姿とイタリア国境スキーリゾートの山々

オッソワ峠への登りでアイベックスに会う
 翌日は前半の山場で、2914mのオッソワ峠を越えて1900mまで下る。昨日とうって変わりこの間全く小屋が無い。白い岩肌を踏んで、雪解け水の沢や雪渓をいくつも横切っていく。そこかしこでマーモットが顔を出し、何頭かのアイベックスにも出会った。天気は最高、後方のPointe de l'Echelle(3418m)の雄姿が素晴らしく、その左はこれまでも望んできたイタリア国境のAiguille de Scolette(3506m)を筆頭とする峰々がクリアに見える。ゆっくりのペースで登り、テント装備の2組の男女ペアが追いついてきた。頭上の十字架は急登を登り切り平坦になった所に立っていた。そこから右方向へ少し上っただだっ広い場所が峠。小さな木の棒がぽつんと立つ。反対側の山々の展望が広がり、なんと谷奥にちょうどモンブランが見える。ここから見えるのはとてもラッキーと言われる。ヴァノワーズの氷河や最高峰のグランカッセは手前の山に隠れて見えない。
 隣のピーク、Pointe de l'Observatiore(3015m)まで道がついている。途中雪渓に覆われているが、先の4人と後からきた単独の若者は登っている。珍しくKさんも体調が良くないと言い、私も元気が無いので、我々はピーク往復をやめてゆっくり休憩することに。峠からの下りは途中一部が地形図で点線(難路)になっている。しかしガレ場で踏み跡が多少交錯しているものの特に難しい所はなかった。私はあとは下りだけだと安堵したせいか調子が回復してきた。なぜか反対側から沢山の人が登って来てこれまでの静かな雰囲気が一変した。Kさんは依然調子悪いのでゆっくりのペースで下り、再びお花畑から最後に樹林帯でしばし暑い思いをして谷間の林道に出る。牛小屋と売店があり、近くにたくさんの牛が群がっている。谷に下るとこれまで見えなかった山上の氷河の一部が見上げられた。ラック・ブランやプチ・モンブランなどのハイキングコースがあってハイカーの往来が多い。
 本日の宿ペッシュ小屋は、林道が通じていることもあり山小屋としては贅沢にシャワー付きの4人部屋を独占できて快適。ハイカーは通過してしまい宿泊者は他に親子2名だけだった。食欲がないKさんが部屋で寝ている間に、ずっと元気な奥様と外のベンチでモンブラン醸造所製ブルーベリー果汁入りビールで乾杯。久々にスパゲティの夕食、地産のチーズとワインによく合う。心配だった不眠も次第に解消してきた。翌日は30分も下ると登山者用の駐車場で、この先は車道とは別の歩道に入る。私は腹の具合が悪くなり、カムチャツカのトラウマが蘇ったのかまた元気がなくなる。プラローニャンの町までコースタイム2時間のところ、のんびり倍の時間をかけて下った。山岳リゾートであるが、レストランやホテルは休業が多く、体調が悪いこともありリゾートの雰囲気を楽しむことができず残念。ホテルで洗濯をしてからゆっくり休む。ランチも夕食も店が限られていて、客が集中して結構混んでいた。
オッソワ峠の下り、正面にモンブランが見える
再びお花畑となり、越えた峠を振り返る

 3.最高峰グランカッセを望みながら氷河湖を巡る〜トレッキング5−6日目
年月日 2023年7月6日〜7月7日
天気 6日 晴れ、7日 晴れ・にわか雨
タイム Hotel de La Vanoise(8:30)…Refuge des Barmettes(11:10/11:28)…Lac des Vaches(12:50/13:23)…Refuge du Col de la Vanoise(14:35//7:30)…Pont de Croe-Vie(10:20/10:50)…Refuge d'Entre Deux Eaux(11:20)…Refuge du Plan du Lac(13:30/15:00)…[周辺散策]…Refuge du Plan du Lac(16:30)

 ホテルでは山小屋よりはバラエティ豊かな朝食を楽しめた。久々にたまっていたメールチェックも済ます。5日目は1440mから2517mのヴァノワーズ峠の山小屋まで登る。GR55の標識に導かれ、町から車道を歩かずに登っていくことができる(GRはグランド・ランドネの略、ヨーロッパの多数のロング・トレールにこの番号が付いている)。途中展望台からプラローニャンの全体を見下ろせる。氷河で削られた岩壁に囲まれた広い谷間にロッジが立ち並び、スキーシーズンはもっと賑わうのだろう。1時間ほどで集落と駐車場がある登山口に出て、ゲレンデになっている草原の登りが続く。お花畑やマーモットや家畜たちが迎えてくれ退屈しない。今日も天気が良くて陽を遮るものが無くて暑い。左手の丘に上がるロープウェイが動いていて、沢山のハイカーが下って来る道を合わせるとバルメッテ小屋、飲み物を注文してテラスで休む。右前方にAiguille de la Vanoise(2796m)の奇怪な突起が目を引き、奥にはPointe de la Grande Gliere(3392m)周辺の鋭角のピーク群が聳えている。

バルメッテ小屋とAiguille de la Vanoise(2796m)の突起、Pointe de la Grande Gliere(3392m)周辺の鋭角ピーク群
ヴァッシュ湖とヴァノワーズ最高峰のグランカッセ(3855m)

ヴァノワーズ峠の小屋からPonte de la Rechasse(3212m)方面を望む
 石の道を歩いて渡るヴァッシュ湖は今回のハイライトの1つ、正面にヴァノワーズ最高峰のグランカッセ(3855m)とその氷河がドーンと望め、右手は先ほどの奇峰の垂直な岩壁が眼前に聳える。しかしここまでの登りがやたら長く感じてだいぶ疲れた。この程度でダウンとは日本のいつもの調子ではない。湖を眺めながらゆっくりランチ休憩とする。すれ違いに注意してきちんと並べられた平たい石の上を歩いて渡り、緩い登りをだらだらと続けるとLac Longという湖の横を通る。グランカッセの他、この先の新たなたな山々が見えてくるが、目指す小屋が全然見えないなと思いつつ進むと、隠れていた小屋が突然目の前に現れた。長い登りが一件落着となった。
 コル・ド・ラ・ヴァノワーズ小屋は周辺が広いなだらかな草原で風が冷たいが展望は素晴らしい。眼前のグランカッセの他、氷河の手前にあるPonte de la Rechasse(3212m)がのびやかな山容に山頂付近は少しカール状の崖を見せる。歩いてきたLac Long側はPointe de la Grande Gliereの姿が迫力満点だ。正面の食堂には靴のまま入れず、地下でサンダルに履き替えて小屋の受付に上がる。付近では最大の小屋で、ハイカーの他に連泊してピークを狙う登攀具持参のクライマーもいる。お湯が出るコインシャワーに行列ができていた。共同部屋のベッドは全て埋まってしまった。広い食堂で一斉に食事をする様は壮観、一番端の小さい夕食は鶏のクリーム煮をかけたライスでパンにうんざり気味だったので嬉しい。チーズは必ず出されるのでグラスワインも頂く。デザートのカスタードも美味しかった。
 6日目は短めの行程で気が楽だ。最初のLac Londから順に3つの氷河湖を巡る山上のパノラマ散歩を楽しむ。正面に、独立したお椀型で周囲を絶壁が囲むPoint de Pierre Brune(3196m)の姿が印象的。風も弱いので周囲の山々が鏡のような湖面に写るのも素敵である。行く手の谷の向こうには、Grand Roc Noir(3582m)を主峰とした山塊が見えてきた。後方はグランカッセがまた違った荒々しい姿を見せている。稜線の末端は丸いグランモッテ(3653m)、裏側はスキー場になっているのだがここからはそう見えない。分岐からお花畑の中をジグザグに下り、立派な石橋で川を渡ってゆるく登っていくと最初の山小屋、ここでは近すぎるので少し寄り道してプラン・デュ・ラック小屋に行く計画。沢添いの車道へ下る途中は地面の色が変わるほどのお花畑になっていた。7月初めは花の最盛期と言えそうだ。このあたりは集落だった形跡あるものの廃屋が目立つ。

Lac Lond湖面にPointe de la Grande Gliere(3392m)の雄姿が写る
独立したお椀型で周囲を絶壁が囲むPoint de Pierre Brune(3196m)

行く手の谷の向こうにGrand Roc Noir(3582m)を望む
 上流の氷河から流れてくる川を渡り、一般車は入れない車道を横断する。この辺りから雪原状の広い氷河の一部が見えるようになる。小屋まで300m弱の登り返しは少々きついが、大きく迂回してきた先の車道に再び出るとまもなく到着。そばの展望台に周囲の山の名前が書かれたパノラマ図や氷河の後退などの解説があって参考になる。車で近くまで上がって来れるようで、ランチ客で賑わっていてスタッフが忙しくしばらく外で待つ。案内された4人部屋を占拠できたので今日は落ち着ける。時折にわか雨が落ちてくるが、せっかくなので雨具持参でPlan du Lacの湖を往復など、のんびり周囲を散策した。再び晴れ間も広がり、Dome de Chasseforet(3586m)から落ちていく複数の氷河が眺められた。今朝見たのと違う方向から見るPoint de Pierre Bruneは横に長いギザギザのだいぶ異なる姿をしている。付近は酪農地帯で、大きな牧羊犬が我々にはわき目も触れず一目散に走り回って仕事をしていた。夕食後には国立公園60周年記念に特別にシャンパンと大きなバースデーチョコケーキがふるまわれた。
昨日とは反対から見るグランカッセとお花畑
Plan du Lac小屋とグランカッセとPoint de Pierre Brune


 4.雪の台地とイタリア国境へ続く峰々の大パノラマ〜トレッキング7−8日目
年月日 2023年7月8日〜7月9日
天気 8-9日 晴れ
タイム Refuge du Plan du Lac(7:35)…Refuge de la Femma(10:45)…Col de la Rocheure(13:40/13:55)…Refuge du Fond des Fours(16:16//7:54)…Col des Fours(9:35/10:12)…Pointe des Fours(10:28/10:40)…Col des Fours(10:53/11:04)…Pont de la Neige[車道に出る](13:20)…Hotel du Glacier des Evettes[Bonneval-sur-Arc](16:08)

フェーマ小屋とDome de Chasseforet(3586m)周辺の氷河
 最後の2日間は長い距離を歩く計画、気を引き締めて出発。昨日通過した山小屋から谷沿いに来る道まで歩道があるが、時間的に早そうな車道を下ってトレールに合流。放牧牛がたくさんいて、地元の酪農家と思われる民家があって車の往来もある。山奥でひっそり生活している人たちもフランスらしく豊かな印象。草原とお花畑の広い谷間の平坦な道が続き、2352mのフェーマ小屋まで来た。途中で抜かされた若い6人組が小屋で休んでいて、彼らは歩く速度は速いものの休憩時間も長いので、この後抜きつ抜かれつで御一緒することになった。
 ここからが本番で、ロシュール峠(2911m)越えの登りになる。谷を取り囲む3000m級のたくさんのピークの展望にお花畑にマーモットが登りの辛さをねぎらうってくれる。後方には昨日のDome de Chasseforet周辺の氷河もよく見える。峠に近づくと雪渓の横断箇所がでてきて意外と硬く、傾斜はゆるいもののピッケル・アイゼンが無いので注意してステップを切っていく。登りついた峠には大きなロシュール湖があり半分以上氷が残ってこれもドラゴンアイに見える? 昨日のGrand Roc Noirを反対側から望むと、山上に平坦な広い氷河があって印象が大きく異なる。峠の反対側も台地状の緩い斜面が広がり、その奥にイタリア国境の険しい山が遠望できる。

ロシュール湖のドラゴンアイ?
ロシュール峠からAiguille de la Grande Sassiere(3747m)などイタリア国境の峰々まで望めた

 峠をから谷沿いに反対の町へ下る道を分け、我々はこの高所の台地をトラバースしていく道をフォン・デ・フール小屋に向けて進む。ところがトレールは雪の下に隠され、踏み跡も不明瞭でルートがはっきりしない。所々に建つケルンを頼りに、ルートを確認しつつ雪上を慎重に進む。沢が凍っていて大きく上流側を迂回したりして高度はほとんど下がっていないのにだいぶ時間がかかった。トラバースを終えて下りにかかる場所でやっと一息ついて大休止、疲れた〜。よく見ると先ほどまで雲の中だったモンブランが見えている。左手に氷河湖がたくさんあってその一部が確認できる。正面にイタリア国境のAiguille de la Grande Sassiere(3747m)を見ながら下っていくが、小屋が見えるのになかなか着かず行動時間9時間近くでやっと到着したときはくたくただった。皆さんは日本でもこの程度は行っているそうで元気、外のベンチで乾杯していた。標高2573mで冷えるので私は夕食まで部屋で横になっていた。小さな小屋でベッドは満杯、町からは結構近いので家族連れや若い女性グループも来ている。夕食がまた米食だったのは嬉しく、チーズにワインも欠かせない。
 トレッキング最後の日は、フール峠(2976m)を越えて町へ下山だ。行動食の残りが減ったので、通称ピクニックと呼んでいるランチパックを頼んだ。袋ごとに中身が少し違って私はチーズでKさんはゆで卵、チーズは食べ飽きたのでゆで卵いいなと言ったら交換してくれた。雲一つない快晴、こちら側からのグランカッセの鋭角の山頂を確認、手前のグランモンテに山頂付近までロープウェイが伸びているのも分かる。フール峠では眼下にLac du Grand Fondの湖がほぼ全面氷で周囲がかろうじてドラゴンアイになりかかっている。イタリア国境の山並みの大パノラマと、これまでのトレッキングで眺めてきた多くの峰々のパノラマをかえりみる。残念ながらモンブランは手前の山に隠れて見えない。単独の男性が北側のPelaou Blancというピークに向けて登っていったがなかなか険しそうだ。また今日も同じコースの昨日の6人組が、反対側のPonte de Fours(3072m)というピークに登っている。容易に行けそうな様子で、これまで頂上に1つも立っていないので我々も往復することに。稜線をトラバース気味に道があって特に困難無くピークに到達できた。再度360度のパノラマを堪能、嬉しいことに再びモンブランも拝むこともできた。

Ponte de Fours(3072m)からこれまで眺めてきた峰々のパノラマ
Ponte de Fours(3072m)からイタリア国境の山並みのパノラマ

モンブランとAiguille de la Grande Sassiere(3747m)
 下山ルートはほとんど雪の上を歩く状態。もう下るだけという安堵感からか体調はよくなる。北側のスキー場がある峠を越える自動車道路があって次々と日帰りで登って来る人に会う。そのため雪の上のトレースがしっかりできていて迷うことはない。日曜日のツーリングを楽しむバイクの音が響いてきて外界に下りてきたことを感じる。車道の駐車場に出た場所の標高が2528mで、最終下山地のボンヌヴァル・シュル・アルク(1810m)はまだ遠い。ずっと同じコースだった6人組は登り方面へトレッキングを継続したようで、この先会うことが無かった。車道を避けて歩ける歩道に入ると橋が壊れていたので、戻って車道を迂回し少し先で歩道に戻ることができた。ミニ下ノ廊下のような崖っぷちを通過し、あとはお花畑の中をだらだらと長い下りが続く。歩く人は少ないみたいで道はか細くなり、先ほどの賑わいとうって変わって静けさが漂う。標高が下がってだいぶ汗ばんでくる。大きく迂回している車道に近づくと、川遊びなどのレジャー客を見かけるようになり、少し車道を歩き、眼下に町を見下ろしながらジグザグに急降下して無事トレッキング完了、今日も長かった。


 5.猛暑のリヨンで観光
年月日 2023年7月9日〜7月13日
天気 10-11日 晴れ、12日 曇り・にわか雨
タイム Bonneval-sur-Arc(9:00)=Modane(10:10/11:28)=TER883372=Chambery(13:34/13:44)=TER18556=Lyon Part-Dieu[Comercial Center](15:20/16:20)…DIFY Duplex-Brotteaux(16:40//9:00)…Lyon Part-Dieu[Comercial Center](9:10/10:40)=Hotel de Ville(11:00)…Musse Miniature et Cinema…Vieux Lyon=Fouviere(13:00/14:00)…Musse et Theatres Romains(14:20/16:10)…Fouviere=Vieux Lyon=Musse des Confluences(16:40/18:00)=Lyon Part-Die(18:30)…Les Halles de Lyon Paul Bocuse(18:40/18:50)…DIFY Duplex-Brotteaux(19:00//10:30)…Lyon Part-Die(10:55/11:15)=サンテグジュペリ空港(11:47/16:00)→EK082→ドバイ国際空港(0:10/2:50)→EK313→成田空港(18:05)

ボンヌヴァルの保存地区は石造りの民家が細い路地に立ち並ぶ
 ボンヌヴァルはフランス山間部最奥の「地球の果ての村」と呼ばれたそうだが、峠越えの街道を車とバイクがガンガン走り、露店が並ぶ観光地になっていてそんな面影はない。この場所では唯一ネットでみつけたホテルに泊まる。ホテルのレストランは休みなので別の所を予約してくれと言われるが、他にやることを済ませてからレストランを探して付近をぶらぶらすると、やはり開いている所がなかなか見つからない。少し離れた眺めの良い所が開いたので生ビールで祝杯を上げた。メニューの食事はほとんどが用意できないと言われ、一応サヴォアの郷土料理とされているチーズフォンデュを注文。食後に保存地区の方を散歩すると、山の中でも見かけた石造りの民家が、レストラン・商店や滞在用のアパートとして細い路地に立ち並んでいて、それなりに趣のある所だ。何か所か開いているレストランは観光客で一杯だった。Plan du Lacの小屋で会ったグループがいて、手を振って挨拶してくれた。通しで歩いているわけではなく車で来たのだろう。
 翌朝、久々にホテルでバイキング式の朝食で欲求にまかせてつい食べ過ぎてしまう。これが良くなかったのかまた気分が悪くなってきた。往路と同じモダーヌ駅へバスに乗り、駅で列車を待つ間も元気が出ず座って過ごす。往路の列車でも調子悪かったので、そのトラウマが蘇ってしまったのか。ところで最後リヨン2泊の宿を昨日ネットで探す際、私がホステルはいやだと言ったので、自分のIDで駅に近いアパートを予約した。今日になって「アパートの鍵はLafayetteのVival Coursで受け取ってくれ」というよくわからないメールが来て、列車の中でKさんのイモトのWiFiが使えたので、みんなであれこれ調べた。Lafayetteというのはパールデュー駅前のショッピングモールのことで、Vival Coursはコンビニのような店で、ショッピングモール内にその店があるのだろうという結論になった。何かに熱中している間に調子悪いことを忘れてしまった感じ。こういうのはこれまでも経験したことがあり、一種のマインドフルネスなんだろうか。
 リヨン市街の暴動は治まった様子、しかし来た時とうって変わって30℃以上の猛暑に見舞われていた。Lafayetteはデパートのようなビルですぐに分かった。でもショッピングモール内は広大で混雑していて専門店ばかり、コンビニみたいなのは見つからない。荷物を同行者に見てもらってさらにうろうろし、上階で暇そうな若い店員を見つけメールの画面を見せて尋ねたらようやく判明。Lafayetteというのは道の名前で、スマホで道順を出してもらう。苦労してやっと2日間の住まいに到着できた。ここは空調が無かったことが判明、こんな猛暑になるとは思わなかったので見過ごしていた。駅近くで手ごろな値段となると難点はあるもので、寝苦しい夜を過ごす羽目になる。でもこの国のレストランは気に入らない点が多く、近くのスーパーで酒類にパスタや野菜など買い込み広いスペースで自炊して食事する方がましと思った。
 あと一日は世界遺産のリヨン旧市街などを観光する予定だった。この猛暑ではとても外を歩き回る気になれず、涼しい美術館・博物館にも使える1日パスを購入することにした。ネットで予約したこのリヨン・シティ・カードを駅で受け取るのだが、その場所がわからずまた1時間以上広い駅周辺をうろうろした。駅構内にSOS窓口というのがあって助けを求めると、そこの人が親切にずっと付き添って案内してくれた。障害者など困っている人に対して極端に親切なのもこの国の文化だと感じる。
 旧市街の少し手前のHotel de Villeまでバスで行くとオペラ座と市庁舎がある広場で、やっと観光らしくなる。パスが使えるリヨン美術館は休館日、ヨーロッパらしい調和した建物を見ながらソーヌ川を渡って旧市街に入っていく。とりとめなく、ミニチュアと映画博物館、ケーブルカーに乗ってフルヴィエールの丘、ローマ劇場博物館、地下鉄とトラムを乗り継いでソーヌ川とローヌ川の合流地にできた合流博物館(人類学と科学博物館を合体させたような所)と観て、トラムでパールデュー駅に戻る。どの博物館も展示のボリュームがあって歩いてまわるのがなかなか疲れる。展示内容にも秩序立てた説明があまり無くて、バラエティ豊かで奔放的なのがフランスらしいのかと感じた。駅近くのお総菜などが買える市場に寄ってみるが、夕方までにほとんどの店が閉まって買い物はできず。昨日と同じくスーパーで買い物して自炊となった。夜には涼しい風が吹いてきて雷雨に見舞われ、昨夜のような寝苦しさは解消した。本来はリヨンの街並みや公園などをもっと歩いて廻りたかったが、猛暑では致し方ない。
 無事海外旅行をこなすことができた安堵感により、帰国の途では変な症状はほとんど出ない。ドバイから日本へ行く便では、日本人が少なくまわりは外国人ばかりで時代の変遷が感じられた。帰国後はしばらく不眠と血圧上昇の傾向があったが、数日で次第に解消していった。今回の旅行で発病前にはなかった体調の波を経験することができ、今後病気の不安感を払拭していろいろ挑戦していくことにつなげられればと願っている。

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